木の扉に背中を預け、サイは目を閉じた。
昔仲間と過ごしていた頃は、世界中の隅々まで冒険したようなつもりでいた。
知らない場所などないと思っていた。ありとあらゆる場所を旅した、と。
それは何という驕りだろう。
クエストを受けても中身など微塵も気にしていなかった。ただ言われるままに走り、敵を倒し、報酬を受け取って。
もし、少しでも内容を気に留めていたら。この「世界」の仕組みについて興味を持っていたら。
あるいは――少なくとも、今よりは、彼女にかかった呪いを、どうにかしてやれたのだろうか。
と、コンコン、背中から二回立て続けに振動が伝わり、サイは現実に引き戻された。
ドアが内側からノックされたのだ。サイが扉から離れると、蝶番が静かに軋む音を立てて扉が開く。
身支度を整えたフィネがいた。怯えた目でこちらを見上げてくる。先ほどの事を気にしているのだろう。
サイはポンとフィネの頭の上に手を乗せ、そのまま髪をくしゃくしゃにしてやった。
「わ、わっ。…もう、せっかく綺麗にしたのにー!」
憤慨した様子で頬を膨らませて抗議する少女に少し笑って、そのまま頭を撫でてやる。
柔らかで細い金髪。小さな頭の形。手を離して、階段の方へ進む。
「…へへ」と小さな笑い声が聞こえた。一瞬振り向くと、嬉しそうに頭を撫でつけながら後ろをついてくる少女のご満悦そうな顔が見え、サイは目をそらした。

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